防大・自衛隊の思い出をつづります。

嵐を呼ぶカッター訓練(3話)

出典元(防衛省HPより引用)

怒涛の3日間(3月29日~3月31日)を乗り越え、4月1日になるとようやく「新2学年(仮)」は「2学年」に昇進する。ここで2学年は袖に桜を一つ付けることが許される。4月1日になるともう一つ、大きなイベントがある。それは新入生の着校だ。受験戦争から解放され、防衛大学校へ不安一杯でやってくるジャリボーイ達を2学年はいざなう必要がある。

防衛大学校では伝統的に1名の新入生に対して、1名の2学年がフォロー係として着任する。これを「対番学生」と呼ぶ。なお期別によっては退校者が多く、2学年だけでは新入生持てない場合には3学年も対番学生を持つ。

ちなみに私のときは「対番学生」の選び方は3月31日に新入生の身上書を指導官から渡されるので、早い者勝ちで選んでいった。同郷者を選んだり、同じ部活の新入生を選んだりと選び方は人それぞれだが、私は仲の良い友達と名字が同じの北海道の新入生をチョイスした。そこには選び方に意味が何もなかったが、彼はその後に「すすき野マスター」に成長し、「1980円の激安風俗情報」など際どいネタを提供してくれるようになった。

この防衛大学校の着校日は学校側が「10:00~14:00の間に来てください」といった示し方を新入生に行うため、着校が早い新入生は10:00に来るが、遅い新入生は14:00にやってくる。

4月1日は2学年が新入生の対番へ「制服一式の選定」「医務室での健康診断」「指導官への顔合わせ」「作業服の名札縫い」「アイロンがけ、ベッドメイク」など行う必要があり、とにかく時間がない。私がチョイスした「すすき野マスター」は10:00にやってきたが、同部屋の新入生は13:00を過ぎて着校せず、焦燥感から貧乏揺すりを繰り返し、気の毒だった。

なお新入生は2学年の対番が著述した「対番ノート」という攻略本を貰う。この攻略本は2学年が1学年生活の後期に余暇を見つけて作成する。そこには寮生活のノウハウが詰めており、イラストや写真を宝石箱のように盛り込んだものや、漫画が描かれていたりとかなり個性が出る。私はイラストが描けないのでカラマーゾフの兄弟のような文章だけで練りこんだ大作を「ススキノスキー」にあげた。不評だった。

夕方になると新入生に緑の作業服を着させて、大浴場と食堂に連れていく。新入生は常に2学年の対番と一緒に行動するため、その姿はまるでドラクエ5のパパスと主人公のようだが、大きな違いは2学年のパパスは上級生とエンカウントするとすぐに死んでしまう頼りない存在だった。

大浴場と食堂から戻ってくると息をつく暇もなく、点呼前の掃除が始まる。この掃除は防大の一大イベントであり、ただ綺麗にするだけではなく、ご指導頂く上級生に命の煌めきを感じさせる必要がある。お家芸の高速掃き掃除と直角床磨きに命を燃やし、掃除が終了すると居室に直行する。上級生が張り切って廊下に吹っ飛ばしたマットレスを元の位置に戻し、点呼前にパリパリにプレスをした作業服に着替え、罵声が飛び交う中央ホールへ点呼集合する。

点呼の終了には「よーし、君たちは『○○期』だから今から歓迎の意味を込めて『○○』回腕立てしてあげよう!」というお決まりのコールが始まり、阿鼻叫喚のなか腕立て伏せを新入生たちに見せつける。

こうして怒涛の4月1日が終わり、初日に新入生の50人近くが小原台を去っていく。対番の新入生がやめた同期は3学年から「じゃあ彼をあげるよ」と社長から愛人をあてがわれるような形で、新しい新入生の対番を付与されていた。士官学校は厳しい世界なのだ。

続く・・・。

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