防大・自衛隊の思い出をつづります。

嵐を呼ぶカッター訓練(中編)

ついにカッター訓練が始まり、2学年は叫び、駆け抜け、尻の皮は向けた。一般大学では飲み会で「うぇーい!」と酒を飲んでいる頃、私は防衛大学校で五厘刈りでグラウンドを駆けずり回っていた。ここは防衛大学校、別名小原台刑務所だ。

前編はこちら

カッター訓練の前にも課題は多い・・・!

防衛大学校のカッター訓練は1日中行われているわけではなく、課業後(16:00~)に行います。なお4月の中旬までは春季定期訓練が日中に行われるため、陸海空それぞれの学生は別途訓練を受けます。私は陸上要員でしたので、日中は校内で戦闘訓練をしました。顔はドーランでペイントし、匍匐前進、そして空砲を使って校内に「ボスボスッ」と重低音を響かせてしました。

出展元:防衛大学校HP(https://www.mod.go.jp/nda/obaradai/boudaitimes/btms200605/teikun/teikun200605.htm)

この時期は「朝は新入生のお世話」「日中は戦闘訓練」「夕方はカッター訓練」「夜は上級生からのアツいご指導」「深夜はスペシャルご指導(放送禁止)」ともう滅茶苦茶な感じでした。とにかく時間がなく、息つく暇がないような学校生活を送っていました。特に夕方はカッター訓練が控えているので、戦闘訓練中に銃の部品や空砲をなくすと最悪でした。時間がない中、グラウンドを這いずり回って探し物を見つけるのです。寝不足・筋肉痛・疲労感でもはやストレスは頂点だったので、こうした中でチョンボをすると同期からの評価は最悪になります。一般大学生が新入生の女子とメルアド交換をしている際に、防衛大の学生は薬きょうを探しています。本当にかわいそうですね。

戦闘訓練が終了するとハイポート(小銃を手にもって走ること)をしながら、学生舎に帰り、怒涛の如くに小銃を整備して武器庫に格納します。そして顔についたドーラン(ペイント)を落として、カッター訓練の服装に着替えます。カッター訓練の服装は「下は作業服・上はジャージ・作業帽」であり、ズボンはカッター用に「ホームレス仕様」のボロボロで汚れたものが貰えます。またジャージの名札は「1mmの本返し縫い」という謎の統制があり、これを守らないと上級生に破られます。破られると消灯後にトイレの個室で縫い直す羽目になるので、ちゃんと縫うことが大切です(今はそんなことしないと思いますが)

出展元:防衛大HPより(https://www.mod.go.jp/nda/obaradai/boudaitimes/btms20110500/cutter20110500/cutter.htm)

さあ地獄の出港だ

16:00頃になると「カッター訓練!集合ーー!!」と放送が始まり、爆音で「カッターソング」と呼ばれる曲が流れます。これは軍歌ではなく「ターミネーターのテーマ」「トップガンのデンジャーゾーン」などが選ばれがちです。この爆音とともに走って隊舎の前に集合して点呼を始めるのです。そして訓練を始めていくのですが、カッターには中隊の2学年(30名)が全員乗船できません。そのため「陸トレ(陸上トレーニング)」「海トレ(海上トレーニング)」という形で分かれます。海トレメンバーは校外にある「ポンド」と呼ばれる海技訓練場まで走っていき、陸トレメンバーはグラウンドでトレーニングを始めます。

まず海トレについて説明しましょう。海トレは海で実際にカッターを漕ぐ訓練です。カッターは腕で漕ぐように見えるのですが、実は腕ではなく体幹で漕ぎます。漕ぐときは腕を伸ばして、身体で漕ぐようにするのです。これを腕で漕ぐとすぐに腕が死にます。もう出港した段階で死ぬのでどうしようもなくなります。そして握力がなくなって「ランチャー」します。ランチャーとは「櫂(オール)を落とす」ことであり、最も不名誉なことと言われています。これをやると「グレネードランチャー」「へたれ」など卒業まで嫌なあだ名がつきます。当時の防衛大学校は「落としても次やろ次!」という明るい雰囲気よりも「落としたら万死に値する」という修羅の学園だったので、みんな死ぬ気でした。

出展元:防衛大学校HPより(https://www.mod.go.jp/nda/information/20170427003.html)

一方で「櫂をへし折る」のは「益荒男」として名誉ある行為と言われており、「ボロい櫂をへし折れば、新しい櫂が貰える」というアイスの当たりみたいな感覚がありました。何本も折ると「あいつマジですごいな」と益荒男度が上がります。そう、力こそすべてでした。

次に陸トレについて語りましょう。陸トレは校内でひたすら上級生にしごかれるトレーニングです。ランニング・腕立て・腹筋・懸垂・坂ダッシュなどを2時間ぐらい繰り返します。もちろん日中は戦闘訓練しますがお構いなしです。ここで辛い顔をしたりすると「おっ!役者だねぇ!名演技!!」などと煽られます。本当に怪我をしているときは助けてくれますが、ただのヘタレだと「アクター」など非常に不名誉なあだ名がつきます。

また防衛大学校の陸トレ名物といえば「走れメロス」ではないでしょうか。走れメロスは一人が鉄棒にぶら下がり、一人が走って帰ってくる友情トレーニングです。鉄棒にぶら下がっている同期を救うために、片方の同期は全力ダッシュで帰ってきます。途中で落ちるとペナルティが発生します。もちろんメロスとセリヌンティウス役は交代で行うので、鉄棒からすぐに落ちる不甲斐ないセリヌンティウスも中にはいます。もちろん走れメロス中も殺伐としているので死ぬ気です。楽しい学校ですね。

MTGによる上級生からのご指導

もちろん訓練が終わっても、防衛大学校は学生舎がありますので緊張状態は続いていきます。入浴・食事・ベッドメイキング・アイロン・掃除を怒涛の如く終わらせて、パリパリにアイロンをかけた作業服に着替えて日夕点呼に集合します。日夕点呼後に集会室に集まり、MTGの反省会が始まります。そのMTGでは上級生が「君たちは毎日頑張ってえらいよ。うん」などというわけはなく、ひたすら反省会です。そのMTGの持ち物は「毎日の振り返りを記載するカッターノート、バインダー、ペン」と決まっているのですが、たまに「カッターノートをなくした!」と騒ぐ同期もいます。それもまた反省会です。つまり毎日が全力だったのです。

そしてMTG終了し、ようやく全てが終わったと思うと自分の対番学生(面倒見る1学年)が「他大隊の上級生に作業帽を取られて、対番学生の2学年と一緒に部屋にこいと言われました!」など無茶苦茶なことを言いだします。そしてわざわざ違う隊舎に行って、帽子を取り返しに行きます。つまり当時の防衛大学校とはそういう学校だったのです。今はもっと優しくなってるから入校希望者は安心してね☆

後半につづく・・・。

 

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