陸上自衛隊と「歌」と言われてもピンとこない方は多いでしょう。
そもそも軍事的な組織である自衛隊が、
「歌になんて力を入れる意味は無いよね」と思う方も多いとは思いますが、
実は陸上自衛隊と歌は切っても切れない関係があります。
今回はそんな陸上自衛隊と歌についてご紹介します。
目次
フルパワー君が代を歌う新隊員
陸上自衛隊に入隊して初めてやる事の歌の一つに
「フルパワー君が代」
があります。
自衛隊は各種行事を行う際には、
必ず国旗を掲揚し、君が代を歌います。

式典では国旗掲揚 防衛省Twitterより出典(https://twitter.com/ModJapan_jp/status/1423598275039358978/photo/1)
一方で地域によっては、
「君が代は歌わなくても良い」という学校があるので、
「君が代を本気で歌ったことがない」という新隊員も中にはいます。
そんな彼らに自衛隊入隊式の予行で「君が代を歌え」を全力で指示しても、
知らない人の中で歌うのが恥ずかしいので、
合唱コンクールで口パクする中2のバスケ部のようになります。
しかし、国防を担う陸上自衛官としてそれではいけません。

厳しい訓練は君が代から 陸上自衛隊第13旅団Twiiterより出典(https://twitter.com/13b_jgsdf/status/1171275212198801408/photo/1)
何度も何度も「もっと強く!もっと大声で!もっとフルパワーで!音程なんか無視しろ!」と鬼教官から熱烈指導されます。
それでも最近まで高校生だった子たちが、
すぐにフルパワー君が代をマスターできるわけもなく、
鬼教官は「おい!おめぇらの本気はそんなもんじゃねーだろ!もっと全力を出せ!」と調子に乗った時の孫悟空みたいなセリフで叱咤激励します。
そんな練習を繰り返し、無事入隊式には、
本宮ひろしの漫画の主人公がブチ切れたときのような、
怒涛の君が代が展開されます。
とりあえず声が大きくて気合が入っていれば「ヨシっ!」なのです。
(陸上自衛隊生活全般に共通するところですね)
私が防大に入校した際も教官から「大きな声で君が代を歌えないお友達はおうちに帰ろうね」と言われ、屋上でフルパワー君が代の練習を行ったことがあります。
それ以来、君が代は「直立不動でソウルをぶつけるソング」と私のDNAに刷り込まれ、君が代は国家からソウルミュージックへ昇華したのでした。
なお何にも指導されてないのに、
いきなりフルパワー君が代を披露する新隊員もいます。
彼らは同期から「日本兵」「歩く愛国心」などのパンチの効いたあだ名をつけられます。
国を愛する心は本当に素晴らしいですね。
陸上自衛隊には歌が多すぎ!
新隊員が君が代をマスターしても、試練はまだまだ続きます。
今度は「方面隊の歌」「教育大隊の歌」「連隊の歌」「駐屯地の歌」のいずれかの曲を覚えて「入隊式でフルパワーで歌え!」と言われます。
君が代は歌詞が少なく、難易度は低いですが、
この「部隊特有の歌」というのは覚えるの苦労をします。
音程を外すのはOKですが、歌詞を間違えるのはNGなので、
夜な夜な歌詞を暗記することになります。
この歌は後期教育に行けば「職種学校の歌」「教育中隊の歌」をまた覚えさせられ、部隊配属になれば「駐屯地の歌」「連隊の歌」をまた覚えさせられ、どこかに入校したり転属するたびにどこかの歌を覚えさせられます。
また地方駐屯地などは「地域のお祭りの歌」まで強制的に覚えせられます。
ただ、陸上自衛隊の各部隊が作る曲は、
大抵の場合は「無名の作詞家」が作ったありきたりな歌詞に
「名も知らない作曲家」が作ったメロディーを乗せるパターンが多く、
何年も自衛隊勤務してると何が何の歌だったかよくわからなくなります。
一例をあげると
ーーーーー
希望に満ちた 若人つどう
明日の平和 守る意思強く
寒風ふけども 心は熱く
剛健無比を 志す
おお!我ら ○○大隊
ーーーーー
といった内容が基本的に多く、
パワー重視に歌うと陸上自衛隊の歌になります。
また整備系の部隊だと
ーーーーーー
日々の整備は 平和の礎
点検確実 爽やかに
強さの源 整備から
仕事をすると 心が晴れる
おお!我ら ○○整備隊
ーーーーーー
リサイクル工場の社歌みたい歌詞になります。
基本的にAIでも作れそうな歌詞とメロディーなので、
10個も聞くとどれがどれだかわかりません。
「おっ、武器学校の曲はファンク風じゃん!」や、
「化学学校の歌はテクノっぽい」なんて事は絶対ありません。

サイケな曲は即NG、エッジの効いたビートはいらない。
駐屯地によっては朝の朝礼前に、
各部隊の歌をカセットテープで流してくれたりしますが、
全部同じ曲に聞こえるので全く覚えることができないのも事実です。
コピーエラーが発生することもある!
お手本としてカセットテープに録音された歌を歌ってるのも、
部隊の「そこそこ歌がうまい人」が歌っています。
プロである音楽隊ではなく、
カラオケのそこそこ上手い隊員が歌って録音していることが多いです。
ただ、その人が音を外すとコピーエラーが発生するので、
部隊全員が外れた音を「正規の音」と認識します。
音源が録音されて20年ぐらいたって、
「部隊の創立40周年記念に部隊の歌を新しく録音しなおそう」と、
意味のないことを連隊長が言い出し、音楽隊に依頼することもあります。
しかし音楽隊の人楽譜を読んで、
「いや〜。なんか違うみたいですね」と
初めて音が外れてる事に気が付くこともあります。

頼りになるのは音楽隊 陸上自衛隊第4師団HPより出典(https://www.mod.go.jp/gsdf/wae/4d/action/r02/action_0206.html)
まぁ、言ってしまえば部隊の歌なんて適当です。
「なんとなくあった方がいいでしょ」の精神で作ってるだけであり、
「部隊の歌を作らないといけない」など、
自衛隊法で特に規定はされていないからです。
小隊の歌や分隊の歌があるところもありますが、
そういったところは小隊陸曹が「長渕剛が好き」という理由で、
「トンボ」の替え歌が設定されていることがあります。
さらに言うと小隊の誰かが適当に作った
「ピカピカ光る 禿げ頭 仕事はやめて 釣りに行こう」などの、
面白ソングが勝手に小隊の歌と設定されており、
むしろ隊員達にとってそれらの方が愛されています。
ちゃんとした曲よりも替え歌の方が流行るのは小学校と同じですね。
つづく!
「陸上自衛隊ますらお日記」はこういう話ばかりなので、
気になる方は書籍もどうぞ!