旧日本軍を学ぶためにおすすめ本

私が過去に読んだ中で「面白いなぁ~」と思った「旧日本軍」を学ぶための本を7冊紹介します。私は日本軍の兵器や軍服ではなく、組織論や生活史などが好きなため、あまり軍事に知識のないビジネスマンや学生でも読みやすいと思います。旧日本軍を学ぶことは現代の日本組織を知るためにも有用なので、ぜひ手に取ってみてください。

失敗の本質(戸部良一 他共著)

まず最初に「失敗の本質」を紹介します。こちらの本はノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦という大東亜戦争における6つの作戦の失敗の原因を掘り下げ、「日本軍の敗因の組織論的考察」から「日本企業・日本の組織が陥りがちな点」を考察しています。

人間関係の過度な重視、連携不足、過去の戦術にこだわりすぎなどの問題点から「合理的・近代的な組織」であった、結果として非合理になってしまった日本軍ですが、この非合理は現代の日本組織にも継承されている点が非常に多いのがこの本を読むとわかります。

「日本軍は愚かだったから負けた」と断言する人が属する組織で日本軍と同じような非合理性が発生していることは日本であれば決して珍しいことではないと思います。

こちらの本は防衛大学校の教授陣が共著し、今もなお読み継がれるベストセラーになっています。コロナウイルス対策における政府対応と旧軍における意思決定の類似点などを知りたい方にもおすすめです。

ただ少しアカデミックで難しい内容なので、読み切る自信がない人は「超入門 失敗の本質」をおすすめします。

日本軍と現代社会の共通点
「失敗の本質」の入門編

経済学者たちの日米開戦(牧野邦昭)

「絶対に日本がアメリカに勝てるわけなかったじゃん。当時の人たちは愚かだった」と思う方にぜひ読んでほしいの本が「経済学者たちの日米開戦」です。日本陸軍は日米戦争前に一流の経済学者を集め、「秋丸機関」というシンクタンクを組織しました。秋丸機関は「陸軍への忖度は一切不要。現実的な数字が欲しい」と陸軍から通達があり、参加メンバーには開放された政治犯の経済学者もいるほどでした。

そして秋丸機関は経済学的見地から日米の比較データを出し、「資源がない日本では、米国との開戦は不可能。数年で資源が枯渇する」という当然の結果が出ました。一方で「米国の意向に従うと、日本国内の資源がなくなって結局は屈服せざるを得なくなる」「ドイツがソ連・イギリスを屈服させれば米国と有利に講和できる」「例えば負けても徹底抗戦の気概がある民族は復興できる」などあらゆる意見がありました。そして「ドイツのヒトラー」や「スペインのフランコ」のように強力な決定者がいない日本では、集団意思決定をせざるを得ずにその結果として強硬論が強くなってしまい開戦をした、ということがこの本に書かれています。

日本は戦時中は「ファシズム」と言われていますが、強い決定権があるリーダーがいなかったのも事実です。もし日本にスペインのフランコのような冷静な独裁者がいたら、開戦回避できた可能性があったとも書かれており、興味深い内容が多いです。ぜひ手にとってみてください。

経済学見地から見た日米開戦

未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命(片山 杜秀)

明治維新以降、日本のエリートが「資源を持たざる日本」が「資源を持てる大国」にどうしたら勝てるのか?と考えた結果、最終的に「非合理な精神主義」に陥いりました。そんなアイロニカルな物語を解説しているのが「未完のファシズム」です。当時の日本軍は「局地戦闘・短期決戦」であれば、なんとか大国に勝つことはできました。しかし「総力戦」になると、あっという間に石油や金属が枯渇するため戦闘継続が不可能でした。その点が当時の日本軍人にとって大きなテーマでした。

その課題から、石原莞爾が世界最終戦論を唱えて満州国を建国をしていくのですが、最終的には日本は持てる国になれず、憲法を改正してファシズム体制にもなれないまま日米開戦に踏み切りました。そして決して埋めることのできなかった大国との資源の差を「大和魂・日本人の気合と精神力」で埋めようとするしかなかったと著者は解説しています。

上記に紹介した「経済学者たちの日米開戦」と併せて読むと当時の意思決定がよくわかりますし、日本軍への理解がグッと深まるのでおすすめです。

日本がたどったアイロニカルな運命
 

日本軍と日本兵 米軍報告書は語る(一ノ瀬俊也)

「日本軍と日本兵 米軍報告書は語る」については米軍が軍内部に出していた広報誌等を分析し、米軍が日本軍をどのように分析したのかを知る本です。「軍隊の規律は良好で綿密な計画なもと十分に準備された防御陣地では死ぬまで戦うが予想外の事態にはパニックになる」「将校の命令通りに射撃をするが、個人の射撃自体は上手くない」「東京出身の兵隊は映画の影響で親米派が割と多い」など目からウロコが落ちるとともに、日本人であれば非常に親近感の沸く日本軍の姿が描かれています。

もちろん米軍発表されている内容なのに偏見もありますが「日本軍は悪鬼ではない。ここが強いがここが弱点だ」という記述もあり、この強みと弱みはまさに現代にも通じるものがあります。

読みやすく資料も多い本なので失敗の本質を読む前にこちらから読んでも良いと思います。

 

一下級将校の見た帝国陸軍(山本七平)

「一下級将校の見た帝国陸軍」は予備士官候補として召集され、野砲士官として従軍した山本七平氏の従軍記録と組織論の本です。こちらは精強な日本陸軍ではなく、戦争末期の「なし崩し的な日本軍」が描かれています。

「1個中隊を残し、2大隊は後方へ転進(後退)」という命令が出た際に「既存の1個中隊」ではなく「大隊から病人や傷病者で1個中隊を編成する」など「命令違反ではないが何も役に立たない」行動を見ていると、「これ仕事の炎上案件でも似たようなこと見たことあるぞ・・・」とため息が出ます。

また士官学校出身の将校、予備士官学校出身の将校、兵卒からたたき上げの将校の意識の違いや、「フィリピンには物資があるから現地調達しろ」と言われて現地に着くと何もなかったことなど、「無計画だが、それっぽく取り繕って体裁を保っていた」日本軍の姿がありありと浮かびます。こちらの本はただ単純な日本軍批判ではなく、この批判内容が失敗の本質と同様に現代の日本組織に刺さるものがあります。

こちらも非常に生々しい内容になっていますが、文章は読みやすく引き込まれる内容です。

従軍記および組織論

総員玉砕せよ!(水木しげる)

「総員玉砕せよ!」はゲゲゲの鬼太郎で有名な「水木しげる氏」が描いた戦記漫画です。一等兵から見た南方作戦が良く描かれています。上等兵のふんどしを洗い、戦場でもビンタされ、食料調達でワニに食べられる・・・そのような組織の不条理がこれでもかと詰まっています。

こちらはコミックなので非常に読みやすいです。ただ私個人としては「戦争は悲惨だった。日本軍はひどかった」の一言で終わってほしくないため、ぜひ興味があれば「なぜ水木しげるは南方で戦い、戦友は死んでいったのか」をより深く知ってほしいため、上記3冊にもぜひ挑戦してほしいです

静かなノモンハン(伊藤桂一)

最後に紹介するのは伊藤桂一氏の「静かなノモンハン」です。こちらの小説はノモンハンに従軍した3名のインタビューをもとに作成された短編で構成されています。水もなく砂しかない不毛な大地でソ連軍の機甲部隊に徒手空拳の軽装備で勇敢に戦い、そして散っていた男たちの話です。

陣地は脆い砂地、水はなく夜露を飲んで喉の渇きを凌ぎ、砂地怪我をしても十分な手当てもなく死んでいった日本軍兵士が目の前に浮かびます。そして悲しいことに争う土地がまさに不毛地帯であり、激戦なのに「何のために戦い、何のために死んでいったのか」がわからない戦いがノモンハンだったのです。

こちらの本はその中でも最後の最後まで命をかけて戦い、勇敢だった男たちの姿が描かれています。時代の中に埋もれがちなノモンハンの戦いですが、私たちが忘れないためにぜひ一度読んでほしいです。

こちらは戦争文学としても傑作であり、私は防大時代に3回読みました。今でも「戦争文学のおすすめ」を聞かれれば「静かなノモンハン」と答えます。

 

まとめ

今回は旧日本軍がわかる本を紹介しましたが、今後についても随時本を紹介したいと思います。もし面白いとおもったら下記の好きなボタンを押して頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

5 COMMENTS

グローバルコム

はじめまして。私も似たような経歴の者(ただし、元海上自衛官)です。似たような経歴なので、考え方も似ていますが、ぱやぱやさん程、文章はうまく書けません。
対米開戦ですが、私はよく善玉とされる海軍が引っ張ったと思っています。理由は簡単で、昭和18年以降、艦艇建造量でアメリカに圧倒され、昭和16~17年に開戦しておかないと、戦っても全く勝てる見込みがなかったからです。
歴史に「もしも」は禁句ですが、陸軍の仏印進駐の後、アメリカからなにを言われても馬耳東風で、のらりくらりかわしながら、真珠湾攻撃をしなかったら、アメリカはわざわざ日本と開戦はしなかったんじゃないかなと思っています。
そうしたら、戦艦大和は記念艦大和として、今頃、三笠の横にあったんじゃないかなと思っています(笑)
これからも読ませて頂きます。

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