防大・自衛隊の思い出をつづります。

不条理の中で煌く宝石(陸上自衛隊入隊者へ知ってもらいたいこと)

出典元(防衛省HPより引用)

私は防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊の幹部自衛官として勤務した後に退職し、いまは野良犬として荒野に住んでいる。この娑婆(民間)という荒野の中で、出会う人々に自衛隊のことを聞くと、彼らは自衛隊のことを「厳しそう」「強そう」「訓練きつそう」「誠実そう」など良くも悪くもメディアで流れている内容を話すケースが多い。そして自衛隊が流す広報はいつも楽しそうで「だいたい残業ありません!」「オタクでも大丈夫」「休みも取れるよ」とまるで自衛隊が地上の楽園のように流し、広報はポスターもだいたい2次元の萌えキャラだ。さすがに人材不足とはいえ、個人的には「ちょっとなぁ・・・」と駅などで見かけるたびに思ってしまう。

中には男臭くて最高にイカす地本の広報ポスターもあるが・・・

私は在職中や退職後の現職、元自衛官の交流を通して「人生において自衛隊に入隊する意味」についてが、だんだんと分かってきたので今回はそこについて書いてみたい。

陸上自衛隊は不条理の筑前煮だ

まず入隊者に知ってもらいたいことは「自衛隊は不条理の筑前煮」だという事だ。この筑前煮というのは「ありとあらゆることを混ぜて煮た」という比喩であり、私が自衛隊を表現するときによく使う。

そもそも自衛隊は任務自体が不条理です。不条理に侵攻してきた敵軍隊と不条理に戦って、不条理に死ぬのが職業です。作家のヘミングウェイも戦争について「君はさしたる理由もなく、犬のように死ぬことになるだろう」と語り、元自衛官の砂川文次は臆病者だけで戦う「小隊」を描いた。つまり軍隊組織とは不条理に死ぬということが前提の職業なのだ。

また自衛隊生活の日常は普通に暮らしていたら、有り得ないような不条理の連続だ。髪の毛や髭が伸ばせないのは当たり前。営内(自衛隊の寮)で生活し、起床から消灯まで時間を決められ、休日は訓練や残留で外出できず、階級だけ高いアホな先輩や上司に苦しめられることは日常茶飯事なのである。

高校卒業後すぐに入隊をすれば、同年代が大学生活を謳歌したり、フリーターとしてプラプラ遊んでいるときに、風呂にも入れずに眠れずにクソ暑い中行軍したり、穴を掘るのが陸上自衛官なのだ。

休みの外出もすることは限られている。最初の任地が地元以外の地方になれば知り合いも友人もいない。そうする休日の日中は駐屯地近くの繁華街に行き、スーパー銭湯のサウナに行って風呂に入ったり、パチンコを打ったり、個室DVDでエロDVDの新作を中年オヤジと奪うぐらいしかやることがない。女性との出会いを求めて街コンに行けば知り合いばかりで少し気まずい思いをすることはざらだ。

さらに有事や災害、コロナウイルスにより外出規制等がかかると外出すらできずに駐屯地の売店でアイスを買って、スマホで動画を見て、運動して、トイレで自家発電するぐらいしかやることがなくなる。

そんなときにSNSで同級生の近況を見ると可愛い女の子達と海や山に出かけ、サークルでの飲み会のが画像が毎日アップされる。そうすると「俺は一体何をしているのだろう」と必ず思う。これが陸上自衛官であればきっと誰しもが思うことなのだ。

もし君が防衛大学校や一般大学から陸上自衛隊へ一般幹部候補生として入隊しても、似たような不条理はあるし、むしろ一般入隊者よりも重い不条理という荷物を背負い、自衛官生活を歩むのでそこは安心してほしい(筆者経験談)

不条理の中で煌く宝石

しかし99%は不条理で構成されている陸上自衛隊にも「1%」の本当に素晴らしい瞬間がある。それが今回の本当のテーマである「不条理の中で煌く宝石」という話なのだ。

名作「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹の言葉を借りれば「そびえ立つクソ」と言っても過言ではない陸上自衛隊ではあるが、そこには宝石散らばっており、一生忘れることのない瞬間も多い。私の持論で言えば、その忘れられない瞬間を味わうだけで陸上自衛隊に入隊する価値はある。自分の限界を超えるような訓練終了後に飲んだコカコーラの味、4夜5日の防御訓練の後の風呂とビール、田舎の演習場で見た訓練中に飛び交う蛍の光、いつも厳しい上級陸曹が見せてくれた優しさ、身体を張ったギャグばかりをする先輩陸曹の面白さなどが忘れらない思い出が陸上自衛隊にいると染み付くのだ

(そういったエピソードは下記の記事を読んで欲しい)

また部隊にいると「この人の為なら死んでもいいかな」と思えるような男気に溢れた良い男にも出会えることができ、1か月に1回程度ではあるが「陸上自衛隊に入隊してよかったなぁ」と思える瞬間が訪れる。

つまり、私が考える陸上自衛隊に入隊する意義とは「99%の不条理の中に煌く宝石」を見つけることであり、1%の宝石を拾うことが出来たならば陸上自衛隊を退職してもきっとその思い出を大切にして生きることができる。陸上自衛隊に経験者の中には組織を全て否定する人もいるが、おそらくは彼らは宝石を拾うことができなかった人たちなのだ。

もし君が陸上自衛隊に入隊しても「自衛隊は不条理だから辞めたい」という陳腐な理由でやめないで欲しい。辞めるにしても不条理の中で煌く宝石を拾い集めてほしい。退職後に思い出をつまみにしながら、自宅の台所で安酒を飲んでも、旨い酒だと感じる。それが陸上自衛隊に入隊する意味なのだから。

だから君が陸上自衛隊に入隊するのであれば、きっと宝は見つかるし、他の人にはわからない思い出が自分に残る。だから入隊は間違いではないのだ。

おわり

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