地獄にいると心が乾く、陸上自衛隊幹部候補生学校①

出典元(防衛省HPより引用)

防衛大学校を卒業後に私が次に手に入れた地獄の切符は久留米にある幹部候補生学校であった。防衛大学校を卒業すると一般幹部候補生の試験は免除され、卒業とともに各幹部候補生学校に入校することができる。しかし、そこで待っていたのは剛健をスローガンにする幹部候補生学校、鬼教官と久留米の日差しが容赦なくぱやぱやを苦しめたのであった。

1.幹部候補生学校について

幹部候補生学校は「陸上自衛隊の幹部を育成する学校」だ。陸上自衛隊は福岡県の久留米、海上自衛隊は広島の江田島、航空自衛隊は奈良にある。私は防大卒業後に久留米の陸上自衛隊幹部候補生学校に行ったので今回は陸上自衛隊について書いていきたい。

幹部候補生とは旧日本軍や諸外国でいうと「士官候補生」だ。自衛隊は「軍隊ではない」というお題目があるため組織では「幹部候補生」という。この幹部候補生になるためには実は様々なルートがある。部内選抜、防大卒、防衛医大、一般大卒、看護、上級陸曹など様々な課程がある。卒業後は3尉(または2尉)となるわけだが、同じ階級でもスキルや経験は実はまったく異なるのだ。

なお私は防大卒から入校したため、今回は防大・一般大課程の幹部候補生という軸で話を進めていこう。

2.防大卒と一般大卒は実はそこまで変わらない

平成19年からは防大卒と一般大卒の教育課程が同じになり、ほとんど幹部候補生学校において同じカリキュラムで訓練を受けることになった。

よくある誤解としては「防大を卒業すると一般大で卒業した幹部候補生よりも優遇をされる」というものがあるが、防大卒が特に優遇されることはない。アドバンテージとしては「少しぐらい自衛隊のことを知っている」「少しぐらい小銃を触ったことがある」「顔なじみの同期がいる」ぐらいだ。理由は防衛大学校は訓練よりも学科教育を重視している点があり、少しばかりは実習や訓練を行うがその知識や技術は一端の自衛官よりもなく、まだまだ「半人前のひよこ」なのだ(当然のことではあるが防大卒でも上位層はかなりできるが・・・。)

実際に一般大学の幹部候補生でも防大卒をごぼう抜きして出世をしていくエリートいれば、成績が下位で低迷をする防大卒もいる。それ故に幹部候補生は防大卒でも恐ろしく、一般大学卒の幹部候補生でも出世の道は平等なのである。

私の体感からすれば防衛大学校は厳しかったが幹部候補生学校に比べれば「ままごと」のような訓練であった。実は防大はアカデミックな雰囲気があり緩いのだ。かたや久留米の幹部候補生学校は剛健を合言葉に益荒男(ますらお)を育てる学校であり、あらゆる出来事に「剛健〇〇」と町おこしのせんべいのような名称をつけて教育をする。食堂の人気メニューが「剛健ちゃんぽん」という名前からすでに察することはできるだろう。

また久留米にある前川原駐屯地はもともと予備士官学校があり、久留米という土地柄も名主の有馬藩があるなど、防大がある横須賀のぬるい風とは違うまさに「武士」を育てる風土がある。つまりは「生半可な覚悟で来ると火傷をする」のが幹部候補生学校なのだ。

当然、将来の陸幕長が生まれる幹部候補生学校においては教官・助教も益荒男たちが日本各地から集結をする。ある益荒男は空挺団出身のバリバリの若手将校、ある益荒男は「3.11」の際に原発に志願して日本を救った男、ある益荒男は抜群の人柄と笑顔・ユーモアがあるウルトラマンなど、まさに陸上自衛隊を代表するような益荒男が集まり、明日への益荒男を育て上げていくのが幹部候補生学校なのである。

そんな幹部候補生学校に当時22歳のぱやぱやは入校をした。私は益荒男ではなく、現代っ子を象徴する手弱女(たおやめ)であり、皮肉屋なので今回の話は「手弱女の皮肉屋が幹部候補生学校にいた」という前提で話を進めていきたい。

3.気合をいれて入校をしろ!

まず幹部候補生学校の入校に際してだが、防大卒は卒業時に貸与された制服を着用して門を通過しなくてはならない。そのため入校日には事前に前泊しているホテル等で制服を着用し、幹部候補生学校に向かう必要がある。市内で泊まっていた幹部候補生学校が制服を着用してゾロゾロと街に出てくるのである。

そしてタクシーやバスに乗り込み、益荒男たちが集う幹部候補生学校に行く。この風景は都内であればまさに異様であり、左翼運動家が見れば「自衛隊の制服は街に悪影響だ」と声を上げるだろう。しかし安心してほしい。この有馬藩が統治をしていた久留米は武士の街であり、陸上自衛官を圧倒的に見慣れているのだ。タクシーやバスの運転手が不安げなひよこたちを乗せ、前川原駐屯地に向かう。まさにこれは毎年のことであり、通常のプロセスなのだ。


そして幹部候補生学校に行くとひよこたちは候補生隊ごとに5人ぐらいの規模に分けられ、歩調を取りながら隊舎の朝礼台に向かっていく。この朝礼台には教官が立っており、この教官に着隊挨拶をする必要がある。しかし、この着隊挨拶は一種の伝統で絶対に一発で通ることがない。


「歩調が揃ってないーーーーー!!!やり直せ!!!」と言われ、歩調を取りながら隊舎を一周し、再度教官がいる朝礼台に戻っていく。この姿はまるでどれにも取られない回転寿司のネタのようであり、哀れなひよこたちは再度歩調を合わせて鬼に向かっていくのだ。

3回ぐらいやり直すと「入校っ!おめでとうっ!!」と刃牙の登場人物みたいな祝福を受けるので「ありがとうございますっ!」という。

ここからが地獄の始まりであり、長い長い8か月が始まるのだ。
久留米で飲む水道水は・・・苦い。

つづく

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