知られざる陸上自衛官のアフター5④

 

陸上自衛官は一般のサラリーマンとは異なり、アフター5こそが修行の場でもあるです。修行と言っても色々な種類の修行をする隊員がいます。今回は食事事情について解説をしていきましょう。①~③を見ていない方はこちらからどうぞ。

知られざる陸上自衛官のアフター5①

知られざる陸上自衛官のアフター5②

知られざる陸上自衛官のアフター5③

 

食堂には多くのドラマがある!

陸上自衛隊は駐屯地によって多少の違いはありますが、大体17:30から18:30ぐらいが食事の時間になっています。こう聞くと「えっ?早くない?」と思う人もいると思いますが、陸上自衛官は基本的にいつもお腹がすいているので問題ありません。この時間になると自衛官はソワソワし、食堂の解放を待ちわびて駐屯地をウロウロするようになります。そして17:30になった瞬間に食堂に自衛官が怒涛の如く吸い込まれていくのは、それほどご飯が食べたくてしょうがないのです。多頭飼いしているネコみたいで可愛いですね。

大村駐屯地Twitterより出典(https://twitter.com/campOHMURA/status/1249553902006972416/photo/1)


この習慣はプライベートでも引き継がれるので、休日でも17時になるとご飯が食べたくなって仕方ありません。付き合ったばかりの恋人とデートしてる時にも「か~、そろそろご飯の時間だね」と言い、朝からやっているような大衆居酒屋などに吸い込まれていく人もいます。ロマンチズムよりも食欲が優先な人が多いのもまた一興です。

話は戻りますが、陸上自衛隊では18:30までにご飯を食べ終われば、その時間はいつでも喫食可能です。ご飯を食べてからトレーニングする隊員や、お風呂に入ってからご飯を食べる隊員もいます。基本的に仕事は終わっているので、のんびりした雰囲気で夕方のニュースを見ながらご飯を食べています。ニュースではなく相撲や、夕方放送されているアニメがテレビで流れていることがありますが、そういったときも何故かオジサンたちは真剣な顔をして、アニメを見ながらご飯が食べてます。露天風呂のテレビで放送されるアニメをついつい見てしまう理論と同じですね。

隊員たちの中にはご飯を茶碗にちょこっとしか盛らない隊員がいます。その姿を見て「食欲がないのかな?」「ダイエットしてるのかな?」と外部の方は思うかもしれませんが、そうではありません。彼らはこれから自衛隊の中にある居酒屋「隊員クラブ」に行って一杯飲みたいのです。だからご飯の量を調整しているのです。

福島駐屯地HPより出典(https://www.mod.go.jp/gsdf/neae/44i/profile.html)

「えっ、じゃあ食べなきゃいいじゃん」と思う人もいるでしょうが、基本的に自衛隊では喫食申請をあげたら食べないといけません。食べないと喫食率が下がり、糧食班から中隊長に「おたくの中隊の喫食率が低い」と報告がいきます。その場合はバツとして休日に外出禁止を食らったりします。税金で食事が準備されていることを決して忘れてはいけません。そういった理由が西郷隆盛みたいなオジサンが、シルバニアファミリーのご飯ぐらいの量を茶碗によそって食べている姿をよく見かけます。

陸上自衛隊の夕食はのどかなのですが、昼食は修羅場です。人数が少ない駐屯地ではそんなこともありませんが、人数の多い駐屯地では大混雑します。基本的には昼食を早く食べれば食べるほど、休憩時間を多く確保できるので、できるだけ早くご飯を食べたいのが人間の心理です。

そのため食堂が開放する前から食堂の扉の前に隊員たちが列をなして並び、イベントがあるパチンコ屋の開店前みたいな雰囲気を醸し出します。「食堂が開く前の高揚感がたまらない」と語る人もおり、一種のイベントと言っても過言ではないでしょう。

一般的な隊員の場合は早く食事を食べ終わっても、昼寝の時間が増えたり、スマホでアホみたいなゲームをやる時間が増える程度です。しかし陸曹教育隊などの修行の場にいる隊員たちは「一日の自由時間が30分しかない」といった生活をしているので、昼食を早く食べられるかどうかが大きなポイントになります。彼らはできるだけお昼前までに教育が終われるように必死で頑張り、すぐに食事を食べられるように考えます。

運悪くお昼前に班長から小言などを貰い、終了時間が伸びた際はもう大変です。歴史の教科書で見た「食料の配給を待つ庶民の列」のように行列に並び、大切な時間をまた一分、一分と浪費していきます。彼らは時間がないので列に並びながら「いいか、汁物はご飯にぶっかけて掻き込め、おかずは口に入れるだけ突っ込め、ヨーグルトは持って帰れ、3分で終わらすぞ」とハリウッド映画のエージェントみたいな会話を並びながら行います。たかが食事ですが、されど食事なのです。

第1陸曹教育隊facebookより出典(https://www.facebook.com/hashtag/%E7%AC%AC%EF%BC%91%E9%99%B8%E6%9B%B9%E6%95%99%E8%82%B2%E9%9A%8A?source=feed_text&epa=HASHTAG)


しかし陸曹候補生隊があるような駐屯地に限って「揚げたてアツアツにこだわってます」という逆にうれしくない心使いをされていることが多く、ホクホクのコロッケを急いで食べるという修行をすることになります。こうした修行を繰り返すことにより、自衛官は食事を食べるスピードがどんどん上がり、一般社会では考えられないスピードで食べることができます。早飯も技の一つですね。

なお食堂では数百名のご飯を裁くため、当然食堂内には導線がきっちり確保されています。工場で働くライン工のように細かなルールに従い、おかずなどを確保していく必要があります。このルールは駐屯地によって全く異なるため、初めて行く駐屯地で食堂のおばちゃんから「ちがーう!なんどいえばわかるの!前にも言ったよね!」壮絶な所見殺しを食らってしまうこともあります。気を付けましょう。

戦場のような駐屯地の昼食ですが、レンジャー訓練に参加をしている隊員については別格です。レンジャー学生は厳しい訓練を行っているので、食事をしっかり取らないと怪我や事故につながるので優先して食べることができるのです。

防衛省HPより出典(https://www.mod.go.jp/gsdf/nae/2d/kunnrenn/rireki/29ranger/29ranger.html)


彼らには「レンジャー学生専用席」が用意されており、レンジャー学生がやってきたら、モーセが海を割るように道を開けてあげる必要があります。この時、隊員たちは口にこそだしませんが「ありがたや、ますらおの権化じゃ」と思い、彼らの背中から後光を感じ取ることができます。

たかが食堂かもしれないですが、ここには多くのドラマが誕生をしています。

陸上自衛隊のご飯は美味しいのか?

これは一概にいえません。実は陸上自衛隊は航空自衛隊や海上自衛隊と異なり、契約した業者(アウトソーシング)が食堂運営をしている事がほとんどです。

そこに業者の利益率、喫食人数、雇った業者の力量、仕入れ先の業者、栄養士の献立の考え方、経費などが複雑に絡み合います。「食事がとてもおいしい駐屯地」「メシマズ駐屯地」が誕生するのです。私も色々な駐屯地や基地でご飯をたべましたが、本当に美味しいところはたくさんありました「えっ、これ外のカフェで食べたら1100円取られるよ」と思うレベルの食事もありました。海鮮丼やステーキなどが登場する駐屯地もあります

防衛省HPより出典(https://www.mod.go.jp/pco/okinawa/okinawa1/images/pdf/kaitei1114.pdf)


一方、メシマズ駐屯地は「味噌汁がぬるい」「明らかに味がない」「ミディアムレアの野菜炒めがでてくる」「そもそもご飯がクサイ」というディストピア世界のご飯になります。昔の防衛大学校ではサラダに大きなミミズくんがいることもあり、もはや事故レベルの食事もありました。

食堂の飯がまずいのは陸上自衛隊が悪いのではなく、契約してしまった業者が悪い場合がほとんどです。もちろん「隊員にまずいご飯を食べさせたくない」と必死に業者と交渉する駐屯地司令もいます。このような場合は劇的なまでにご飯が美味しくなったりしますが、司令が変わったとたんに「古き良き伝統の味」に戻る事も多いです。

言ってみればそのような業者は「やる気のないおじいさんが経営している居酒屋」みたいなものです。しかし僻地に駐屯地がある場合などには、そもそも契約業者の選択肢が少なく、このような結果になることもあります。

また仕入れ先の業者も「ちょっと質のわるい野菜」などを送ろうとしてくる事もあります。この際、目利きの糧食班長などがいれば「おい、このレタスどうなってんだよ!品質わるすぎだろ!俺の目がレンコンだとおもったか!?」など文句を言うこともできますが、慣れてない人だと質の悪い野菜などを買ってしまうこともあるようです。公務員といえど交渉することが大切と言えるでしょう。

つづく

今回はここまでです。
ネタはまだまだストックあるので、
「面白いです~」という更新されますよ。はい~

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